中小企業向け貸出と担保
経済成長期においては、市場全体が拡大しているため企業が倒産する確立は低く、銀行は現場に権限移譲することにより、機会損失を減少させることができたと思う。具体的には、貸付先の情報を相対的に多く持つ現場では、企業の実態に近づいた判断が可能となり、様々な手法による貸付や今よりも高いリスクを取った貸付を行っていた。
すなわち、リスクマネーの供給を、融資の形をとりながら実質的に銀行が行っていたと言える。ベンチャー・キャピタル等と同様の機能を銀行が担っていたのだ。
一方で、経済衰退期においては、市場は縮小しているため、企業の倒産確率は高く、銀行は新規融資に慎重な姿勢で臨む。非定形的な貸付の禁止、過度な有担保取引への偏重等、顧客である借入先のニーズから遠ざかる運営を行うことになる。
経済衰退期(衰退までは言い過ぎかもしれないが・・・)に入った我が国において、その経済成長期において主たるリスクマネーの供給者であった銀行が、今急速にその存在意義を落としつつあるように思う。
特に中小企業を顧客基盤の中心に置く、地方銀行、信用金庫、信用組合においては、定型商品でありリスク管理が容易であること、デフォルト率が低いこと、を理由に大企業に勤める個人向け住宅ローンをビジネスの中心に置いており、過当競争に追い込まれている。
預金者保護の観点から、金融行政からより一層厳しく要求されるリスク管理の側面からも、企業を対象としたコーポレート・ファイナンスへ積極的に取り組むような地方銀行等はほんの一握りと思われる。
第5回金融審議会「我が国金融業の中長期的な在り方に関するワーキング・グループ」議事要旨において、「中小企業向け貸出と担保」の特徴として次の点があげられている。
・有担保取引が多い
・不動産以外の担保が少ない
・在庫より売掛金のほうが担保力は高い
・売掛金の担保設定につき、中小企業においてレピュテーショナルリスク(信用力に対する風評リスク)が存在する
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/w_group/gijiyousi/20111014.html
個人的見解だが、一般的に、担保力のある不動産・動産はキャッシュフローの安定した汎用品を取り扱う企業が多く有しており、高付加価値な製品・サービスを創出する成長企業が有するケースは少ないように思う。高度に成長した経済社会では、アイデア等の知的財産が高い付加価値をもつ製品・サービスへとつながるためである(時価総額5兆円のフェイスブックを運営する上で、必要な資産は何であろう?)。
結局、必要なリスクマネーが必要とするところへ行き渡るためには、ABL等の有担保取引では難しいのではないかと思う。
銀行以外で我が国のリスクマネーの供給は誰が担うのだろうか?