Skip to content

企業の利き手

企業にも右手と左手といった利き手がある。取り扱っている製品・サービス(プロダクト)の種類によって、大きく利き手が異なるため、新プロダクトを開発するときには気をつけなければならない。

具体的には、プロダクトは(1)テーラーメイド型および(2)レディメイド型に大きく大別される。前者は、クライアントのニーズに応じて仕様を変えるプロダクトをいい、後者は広く一般に汎用される定型的なプロダクトをいう。情報通信産業のなかでも、システム構築等コンサルティングを中心に行う企業におけるプロダクトはテーラーメイド型であり、パッケージソフトの開発・販売を行う企業におけるプロダクトはレディメイド型といえる。同じ産業内においても、プロダクトの分類が異なることに注意が必要である。

テーラーメイド型プロダクトを取り扱う企業において、いかにクライアントのニーズにマッチしたプロダクトを作り上げることができるか、ということがマーケットから要求される。従って、そこに属する人材に要求される知識・スキルは、(ア)営業、生産、購買、管理等、幅広いエリアに対する一定の知識、(イ)クライアントをはじめとする複数の利害関係者にきちんと情報を伝えるコミュニケーション・スキル、(ウ)クライアントをはじめとする利害関係者を自らの狙った方向へ行動させるコンサルテーション・スキルであり、後述するレディメイド型プロダクトを扱う企業の人材に比して相対的に高度な知識・スキルを要求される。また、各担当者はクライアントと交渉するなかで様々な要求に迅速にこたえるべく大幅な権限移譲が必要とされるため、こうした企業に適した組織はクライアントタイプ別に営業、生産、購買、管理等を分割した組織(ちょっとした事業部制組織)である。また、人事制度においても、権限を与えるかわりに厳しい責任を課すべきといえる。すなわち、結果に対する責任を評価制度にきちんと反映させることが、組織の運営には必要となる。

一方で、レディメイド型プロダクトを扱う企業において、マーケットからは同機能のプロダクトをいかに低コストでつくるか、という問題をつきつけられることになる。こうした低コストを実現するうえで重要なポイントは作業効率である。同じプロダクトを作り出すために無駄を徹底的に省き、特定の作業に習熟することにより効率を上げることが必要なのである。従って、そこに属する人材に要求される知識・スキルは、(ア)特定の作業に対する深い知識、(イ)特定の作業に関連する人々との一定のコミュニケーション・スキル、(ウ)特定の作業に関連する人々に対する一定のコンサルテーション・スキルであり、前述したテーラーメイド型プロダクトを扱う企業の人材に比して相対的に一定の幅にとどめられた知識・スキルを要求することになる。各担当者が定型的な作業を効率良くこなすことができるよう、組織は、営業、生産、購買、管理等、機能別に分割される(機能別組織)。組織全体の業績に対しては、いずれの機能が欠けても成り立たないことから各担当者が平等に責任を負い、また、機能同士の円滑なコミュニケーションがプロダクトの創出には必須であるため、各担当者間の円滑な人間関係が必要となる。このため、全社的な決定を下す経営陣以外は、なるべく上下関係を排した横並びの評価制度が採用されるべきといえる。

上記のような人事制度の違いは、企業文化の違いを生み出すことになる。たとえば、両企業において同じように人事評価をきちんと行ったとしても、スタープレイヤーを褒めたたえることに力点を置く前者に対して、落後者への叱咤激励により引き上げることに力点を置く後者であるように、企業文化が異なる。企業にとって重要な経営資源である人材へフォーカスするポイントが、前者は成績が優秀な者に注目するのに対し、後者は成績が悪い者に注目する、といった違いが出てくる。

一方の企業文化が染みついた企業が、もう片方のプロダクトへ進出することは、過去の成功パターンがまったく通用しない世界に入っていくくらいの覚悟が必要といえる。個人的には、既存の事業ポートフォリオと高い壁を設けて、お互い見えないようにして進めて行ったほうが成功する確率は高いのではないか、とさえ思う。大企業では複数の事業ポートフォリオを有しているため、こうした問題は過去に数多く経験していると思うが、事業を売り買いすることに慣れたこのあたりのマネジメントが上手な外資系企業に比して、家族的経営を好む日本企業はまだまだ多角化をうまくすすめていない気がする。

あなたの会社はどちらが利き手だろうか。