日本の家電業界に見る今後の先進国の経営意思決定システムの変化
過去、日本の家電業界は、上場会社が稼ぎ出す利益の全体のうち、かなりの割合を占める産業であったと思う。しかし、日本の誇る技術力を基礎に、他国の家電メーカーが追随できないレベルの製品を創出してきたが、ここ数年で様相は激変している。シャープに限らず、ソニーがここ数年継続して多額の損失を計上しているほか、その他の家電メーカーも厳しい経営環境におかれていると思われる。
この原因の一つに、日本企業の特徴である集団的意思決定システムがあるように思う。
この集団的意思決定システムは、根回しに代表されるように組織としての意思決定をする前に行動し始める点に特徴がある。数多くの利害関係者と調整しながら内容が固まって行くため、素早くリスクを抽出しながらそれに対応することができる。この結果、最終の意思決定が行われる時点ではすでに製品・サービスはできあがっており、明日にでも市場に投入ができる状態になっていることが多い。このようにして、今まで日本企業は、欧米企業に比べてスピード感をもった経営をしていたと思う。
一方でこのシステムには、リスクテイクできないという大きな欠点がある。リスクテイクする時には、様々な人間の多面的な検討の結果抽出されたリスクを、誰かが切り捨てなければならない。切り捨てる人間は、組織の中でリスクに対する責任を追うことになる。このため、抽出されたリスクやニーズをすべて織り込んだ形での製品・サービスが開発されることになる。日本の製品の機能が増えすぎて分かりづらくなっていったのはこの意思決定システムが作用した結果のように思う。
先進国の今の消費者はワガママであり、すべての消費者を満足させることは不可能に近い。人気コメディアンのビルコスビーも、
I don’t know the key to success,
but the key to failure is trying to please everybody.
Bill Cosby
成功への鍵が何かは知らないが、
失敗への鍵は全員を喜ばせようとすることである。
ビル・コスビー(アメリカのコメディアン)
と言っている。自己実現へと欲求のレベルが高まった先進国では、さらに消費者のニーズは細分化されており、この点でも同様のことが言える。これからの先進国のマーケットでは、多様化した少数のターゲットに絞った製品開発やサービス作りをしなければならない。すなわち、経営意思決定において、より一層スピード感をもってリスクテイクすることが必要と言える。
集団的意思決定システムから抜け出すことが、これからの日本企業には必要である。